博物館の由来
チャトラパティ・シヴァジ・マハラジ博物館(Chhatrapati Shivaji Maharaj Vastu Sangrahalaya)は1922年にプリンス・オブ・ウェールズ博物館(Prince of Wales Museum of Western India)として一般公開が開始されたインドの歴史や文化を展示する博物館です。1998年に現名称に変更されました。設立の構想は1905年とのこと、イギリスの植民地時代から独立という幾多の歴史的変遷を経て現在に至っていることでしょう。
チャトラパティ・シヴァジ・マハラジ(Chhatrapati Shivaji Maharaj)は17世紀に当時のイスラム王朝であったムガル帝国に対抗するヒンドゥー教のマラーター王国を現在のマハーラーシュトラ州(Maharashtra、ムンバイのある地域)に造り上げた人物であり、この地域の英雄的な存在です。チャトラパティ・シバジ・マハラジ・国際空港(Chhatrapati Shivaji Maharaj International Airport Mumbai)も彼の名前を冠しています。ちなみに個人名はシヴァジ(シヴァージー)で、チャトラパティとマハラジは尊称的に付けられたものです。
まあ、歴史的な話は素人の私が語れるものではありませんが、建物は見事だと素直に感じます。イギリス帝国時代の建築で、博物館のために建てられたものですが、当初は誰かの宮殿か総督府的な位置付けの建物かと思いました。

私の気になった神様達
例によって私の気になった収蔵品を写真に収めたので、それらを掲載することにしますね。
下の写真で左側はヴァナデーヴァター(Vanadevata)と呼ばれる精霊(的な神様?)です。ヒンドゥーの正統な神ではなく、インドの部族社会に根ざした自然信仰の中で神様と崇められています(像に付けられた説明文を読み解きました)。この彫像は2014年製作の新しいものです。顔つきが面白く、つい写真に撮りました。顔のアップも載せておきます。
真ん中の写真は、ご存じ有名なシヴァ神(Shiva)です。別名マハーデーヴァ(Mahadeva)とも呼ばれています。何と、7体のシヴァ神が刻まれており、説明文によれば、シヴァが宇宙のあらゆる方向に遍在しているという観念を表現しようとしたとのこと、深い宗教知識がなければ理解は難しいですね。
下の写真右側ですが、ジャイナ教(Jainism)の24人のティールタンカラ(開祖・渡し手)のうち第16代にあたるシャンティナータ(Shantinatha)です(もちろん説明文に依っています)。シャンティナータは人々に苦悩と悲惨から解脱する道、すなわち救済への道を示したとされ、シャンティナータを礼拝することで、災厄や疫病を退けると信じられています。嫋やかな表情が印象的ですね。


創造神ブラフマー
さすがインドの歴史と文化を示す博物館、ここには多くのヒンドゥーの神様の像がありました。それらの中で私の目を惹いた幾つかの像を紹介します。阿修羅像を彷彿させる四つの顔を持つ胸像は、ヒンドゥー教の神ブラフマー(Brahma)です。

以下受け売りですが、ヒンドゥー教の最高神の三つの様相を持つとされ、これを神聖三位一体(トリムルティ)と呼びます。この三つの様相を表す神が、創造神ブラフマー、維持神ヴィシュヌ(Vishnu)、破壊神シヴァです。
ブラフマーは四つの顔と四本の腕を持ち、聖典ヴェーダ(Vedas)を紡いだ知恵の神とされています。私は阿修羅を思い浮かべました。そこでちょっとだけ調べてみると、ブラフマーも阿修羅も、もともとは同じ古代インドの神話世界(ヴェーダ的世界とでもいうのでしょうか)から生まれた存在でした。なのでどちらも四つの顔と四本の腕を持っています。
それがヒンドゥー教では、ブラフマーは世界を作った神、阿修羅は神々と争う強い存在という役割に分かれていきました。仏教はこの神々をそのまま借りて、ブラフマーも阿修羅も「まだ悟っていない存在」として整理しました。ちなみに仏教でブラフマーは梵天(ぼんてん)という名前で登場します。
以上の説明は私の俄か勉強の成果ですが、きっと間違いがあると思います。見つけたら笑いながら指摘いただけるとありがたいです。この石像は出所がエレファンタ島(Elephanta Island)となっています。エレファンタ島はムンバイの港からフェリーで1時間弱、2019年のムンバイ訪問に際して行っています。そこの石窟は素晴らしく、そのうちに投稿記事として紹介したいと思います。
象の頭を持つ神、ガネーシャ
次はお馴染みガネーシャ(Ganesha)です。象の頭を持つヒンドゥー教の神で、シヴァ神とパールヴァティー(Parvati、ヒンドゥー教の女神でシヴァ神の妃)の子とされています。インド全土で広く崇拝されてる知恵の神で、障害を取り除く者、そして幸運をもたらす者として知られています。

ヒンドゥー教では宗派を超えて尊敬され、商売や学業、旅立ちの守り神として重要な役割を持ちます。家庭や商店の入口に祀られることが多く、「何かを始めるときはまずガネーシャに祈る」という考え方が今も日常に深く根付いています。
偉大な神でありながら親しみやすく、インドでは最も身近な神の一柱といえます。また、ジャイナ教やチベット仏教(Tibetan Buddhism)でも崇拝されており、南アジア、東アジア、東南アジアの外国の地でも同様に敬われています。
ヤクシャ・パドマニディ
造形から興味を持って調べたところ、この像はヤクシャ・パドマニディ(Yaksha Padmanidhi)であることがわかりました。ヤクシャ・パドマニディは、古代インドで信仰された自然精霊ヤクシャの一種で、特に「豊穣」と「富」を象徴する存在とされています。確かに、日本の七福神のうち大黒天がそこはかとなく思い浮かべられます。

ヤクシャとは森・水・岩・宝物などを守る土地神・精霊であり、パドマニディ蓮の宝、すなわち豊穣の宝庫との意です。ヒンドゥー教でも仏教でもない、もっと古くからのインドの民間信仰に由来する精霊です。ヤクシャ・パドマニディはそうしたヤクシャの一柱です。
シヴァ神の破壊を体現するバイラヴァ
次はヒンドゥーのとても有名な神であるシヴァ神です。とはいっても通常のシヴァ神ではなく、シヴァ神が怒りや破壊の力を前面に出したときの恐ろしい姿であるバイラヴァ(Bhairava)です。シヴァ神は創造、破壊、瞑想、怒りなど多くの顔を持つ神で、バイラヴァはその中でも恐怖と破壊を体現した姿を指します。シヴァを神の本体や総称として捉えた時、バイラヴァは状況や役割によって現れる恐ろしい化身という関係になります。

恐怖を与える存在ではあるのですが、無差別に破壊する神ではなく、悪や無知、傲慢さを断ち切るために現れると考えられています。骸骨や武器を持つ姿で表され、時間と死を支配する力の象徴でもあります。
また一方で、バイラヴァは聖地や寺院を守る守護神としても信仰されています。恐ろしい姿は人々を脅かすためではなく、邪悪なものを寄せつけないためのものとされ、恐怖の裏側に守護と浄化の意味を持つ存在とも考えられています。何度もいいますが、奥の深い世界ですね。
仏陀の顔の彫の深さ
この博物館にはヒンドゥー教関連の神様の彫像が多いのですが、仏教関連の彫像も相応に展示されています。その最たるものが前庭に置かれている仏陀の巨大な頭像です。この投稿記事のトップの写真ですね。
以下は仏陀の胸像の写真ですが、展示品は実は複製です。オリジナルはパキスタン北西部のタフティ・バーヒー(Takht-i-Bahi)遺跡から出土したガンダーラ美術の彫像です。紀元2世紀〜3世紀頃のクシャーン朝時代に制作されました。

私が面白いと思ったのは、この仏陀の顔の彫の深さです。明らかに日本で普通に見る仏像の顔とは異なった造形です。要は彫が深く、インド・アーリア系の人々の顔に見えます。日本の仏像の顔は、この像に比べれば平面的ですよね。仏陀の顔といえど、作られる地域に住む人々の顔に似てくるわけです。
タタ一族のこと
チャトラパティ・シヴァジ・マハラジ博物館にはタタ一族の名前を冠したギャラリー があります。これらのギャラリーは、インドの実業家一族・タタ家から寄贈された膨大で質の高い美術品を収めており、館内で最も重要な西洋美術コレクションとして知られています。
以下の写真はサー・ドラブ・タタ(Sir Dorab Tata)のギャラリーの奥に展示されていた肖像画です。真ん中がタタ財閥初代総裁であるジャムシェトジ・ヌッサーワンジー・タタ(Jamsetji Nusserwanji Tata)、右側が二代総裁であるドラブジ・タタ(Dorabji Tata)の婦人であるレディ・メヘルバイ・タタ(Lady Meherbai Tata)です。レディ・メヘルバイ・タタは20世紀初頭インドを代表する慈善家・文化的後援者として知られています。また左側はレディ・ナヴァジバイ・タタ(Lady Navajbai Tata)で、初代ヌッサーワンジー・タタの次男で文化事業を担ったラタン・タタ(Ratan Tata)の妻です(関係は結構複雑ですね)。

タタ家の歴史はインドの歴史の一部として興味深いものがあります。そのうち調べてみたいと思いました。
博物館の建物内部
最後に博物館の中央塔付近の内部の写真を載せておきます。私は収蔵物も見事ですが、この建物自体も見事なものだと感銘を受けました。




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